西原尚|TWS渋谷クロージング「渋谷自在―無限、あるいは自己の領域」
西原尚さん、潘逸舟さん、大野茉莉さんの「自在―無限、あるいは自己の領域」展覧会の最終日は、トーキョーワンダーサイト渋谷の現代美術展としてのクロージングでもあった、9月17日だった。
西原尚さんのパフォーマンスは、黒山の人だかりの隙間をぬってみるしかなかったが、チリンチリンと手にした鈴を鳴らしながら、何かを探索するように「だれかいませんか」と語りかけているのを、耳でじっと「観ている」ような気がしていた。ちょうど、セルビアはクレナムの文盲の羊飼いにして予言者であった、ミタール・タラビッチという人の言葉を思い出していた。彼が残した「クレナムの予言」は、セルビアでは有名な存在で、穏やかな語り口で人類の行末が真摯に語られて、人間の精神の危うさや愚かさが率直に問われている。人として見いだすべき真の姿は実に単純なことを知覚するかであり、満たされるべきエネルギーは人の周囲や中に存在していることへの自覚ということだった。たくさんの人が取り囲んでいる、取り囲まれている空間に、その言葉はどのように響いてゆくのか。それが観えていたのか、自問自答しながら。
そんな茫洋とした余韻にひたっているあいだに、潘逸舟さんの「搬入」と呼ばれるパフォーマンスも、荷造りされた段ボール箱が、ずいずいと動きながら前進していく。これも同じ志向性を投げかけているのかもしれない。オル太さんのパフォーマンスが、たくさんの人で観られなかったのが残念だった。
帰る頃には、雨雲も次第に遠のいていくように、長かったような短かったような年月の終わりが、いつの間にか、目の前を通り過ぎていってしまった。トーキョーワンダーサイト本郷がはじまってまもなくから、なんだかんだと関わりがあった自分としては、いろんな色の感慨がよぎると、名残惜しい気もしていた。
大野茉莉 http://mariohno.com/
そして、同じくTWS渋谷の終わりを告げるかのよう、アーティスト、画家の牡丹靖佳さんの個展「Thaw」をTWSアートカフェで観た。雪解けと題された絵画が、輝く何かが静かに降るように、暗がりの中に浮かび上がっている。その「現象」を自分の雰囲気の中に観ながら、あなたの10年間は何だったのと親しい友人から聞かれているような気がしていた。きっと、絵の中に声ある、それを観る。
牡丹靖佳
"Thaw" Tokyo Wonder Site Shibuya
絵本「おうさまのおひっこし」福音館書店